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『死の泉』読後レビュー|美しくて不穏、ちょっとクセになる

皆川博子著

どこか耽美な雰囲気のある文章を書く作家だ、という印象があります。

今回は第二次大戦中のドイツが舞台。地名などは正直まったく馴染みがありません。

それでも、うっすらとした気味悪さが漂う一方で、田舎町の素朴さの描写は妙にリアル。

「もしかして、当時ここに住んでいました?」

と思ってしまうほどです。

第二次大戦末期、ナチの施設〈レーベンスボルン〉の産院に端を発し、戦後の復讐劇へと発展する絢爛たる物語。去勢歌手、古城に眠る名画、人体実験など、さまざまな題材が織りなす美と悪と愛の黙示録。

戦争中における科学者のマッドっぷりといったらもう。ゲームや映画などでも、だいたい厄介ごとの発端になる存在ですよね。「だいたいお前のせい」枠。

例にもれず、本作にも登場します。で、個人的な感想を率直に言うと――

気持ち悪い。

ねっとりと絡みつくような気持ち悪さ。はがしきれなかったテープ跡の、あのベタベタに近い。

その一方で、美しいものへの描写は驚くほど繊細で丁寧。

だからこそ、その対比が際立ち、読んでいてなんとも言えない薄気味悪さを覚えます。

この感覚が、妙にクセになる。

夢と現実の境目に立たされているような心地で、落ち着くような、同時に不気味なような。そんな読書体験でした。

序盤は独白じみた語りが続き、正直、少し退屈かも……と思いながら読み進めていたのですが、後半の怒涛の展開には驚かされました。

終始、まったりとねっとりした雰囲気のまま終わるのかと思いきや、いい意味で裏切られる展開。

まったく予想できなかったわけではないけれど、それでもかなりハラハラさせられました。

すっきり爽やかな読後感とはいきませんが、ミステリとしてはなかなかの仕掛けなのでは、と思います。

……いや、だいぶ上から目線で大変恐縮ですが、楽しく読ませていただきました。

皆川博子さんの作品が好きだけど、まだ本作を読まれていない方はぜひ。 読んだことがない方も、これをきっかけに、耽美・不穏・狂気の世界観をのぞいてみてほしいです。

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